北海道帯広市・「ランチョ・エルパソ牧場」の十勝放牧豚どろぶた肉・生ハム(プロシュート)

大自然のなかですくすく育つ豚は、本当に無邪気で楽しそう

 

 広大な放牧地に一歩足を入れると、林の中、草の陰から現れた豚たちがぞろぞろとやってきて、しばらくジロジロと見つめた後は足元をクンクンと嗅ぎまわり、体を摺り寄せてきます。この人懐っこさはなんだろう!
 人が豚舎に入ると警戒して騒ぎ出し、パニックに陥る密飼いの豚とは対照的に、怯えや警戒心がありません。  北海道十勝の広大な大自然に抱かれたおよそ30ヘクタール、3つの山が連なるエルパソ牧場の放牧場には林や草地、谷、沢などの水場があり、常時1,000頭の豚が放し飼いにされています。

 山の頂上に立って周りを眺めると、傾斜地の草場でのんびりと草を食べたり、土や水辺の泥の中で昼寝をしたり、仲間とじゃれ合い草地を駆けっこする姿や林の中で木の実を口で拾ったり、鼻で土を掘ったりする様子が見えます。ストレスなく自然のなかで育つ豚は、本当に無邪気で楽しそうです。
 牧場主の平林英明さんがカボチャやハクサイ、ホウレンソウなどの野菜屑の餌を運んでくるといっせいに集り、ムシャムシャと頬張り、食べ終わると満足そうな表情で駆け出し、また仲間と戯れます。人の手で家畜として改良され、狭い豚舎での生活を余儀なくされてきた豚が、自然のなかの放牧によって本来の生活を取り戻し、もともと持っていた行動習慣を充足させている姿が見えます。
 この豚たちの人懐っこさはどうしてかと平林さんに尋ねると、平林さんは「育てる者と心が通じ合っているんだよ。だから人に警戒心がないんだね。人も家畜も心は一緒です」と微笑みました。

自分が料理に使いたい豚肉を、自ら生産しようと思った

 

 平林さんは1969〜1971年にかけてアメリカで農場実習をしていたときに放牧養豚を学びました。また、ソーセージやサラミなどの加工食品のおいしさも知りました。帰国後、帯広市内にレストラン「ランチョ・エルパソ」を開業してオリジナルのソーセージやサラミの製造を始めました。平林さんか作るソーセージやサラミは味のよさが評判となって注文が増え、月に20頭分の豚肉必要になりました。
 しかし、そうした評判に飽き足らず、もっとおいしいソーセージやサラミを作るために「もっとよい豚肉を使いたい」という思いが強くなりました。ところが、当時はまだ食肉流通が閉鎖的で特定の生産者の豚肉を仕入れることが難しかったことから、平林さんは「自分の料理や加工品に使いたい豚肉を得るために、自ら豚を育てよう」と思い立ち、アメリカで学んだ放牧養豚を決意しました。
 2004年に26ヘクタールの敷地を利用して「豚を自由に動きまわれる屋外に放し、健康に育てる」放牧養豚を開始し、10年後の2013年に帯広市に隣接する幕別町の30haの広大な山地に放牧場を移しました。

110日齢まで集団生活と環境に馴れさせ、260日齢(約8か月半)まで放牧

 

 「エルパソ牧場では自然繁殖に子豚が生まれています。その子豚を生後30日齢で離乳させ、離乳舎(子豚専用豚舎)で50日齢まで育てた後、51〜80日齢まで広々としたビニールハウスの第一子豚舎(子豚育成施設)で群れ飼いし、さらに81日齢になった豚を110日齢まで、屋内と屋外を行き来できる放牧前期舎(放牧前育成施設)に移して飼育します」と平林さん。
 30〜80日齢までの二度の子豚舎での群れ飼いの50日間を、集団生活に馴れさせ、病気や虚弱な豚を判別して別施設で育成する期間とし、放牧前期舎での81〜110日齢までの30日間を外部環境に馴れさせる馴致期間としています。
 育成施設では、トウモロコシ主体の配合飼料、牧草(青草のない冬は牧草サイレージ、乾草など)、キノコの菌床、粉炭、ホエー(乳清。牛乳から乳脂肪やカゼインなどを取り除いたもの)、野菜屑などを餌として与えます。ホエーはカルシウムが豊富で、粉炭は腸内環境を整えます。

 110日齢を過ぎると豚は放牧されます。放牧場に移された豚は山や谷、林地、草地、沢など変化に富んだ地形の放牧地を自由に駆け回り、仲間とじゃれ合って遊び、伸び伸びと育ちます。
 放牧地には屋根だけの小屋が4棟あって、床には寝床のように藁が敷き詰められ、夕方になると豚は自然に集り、藁に埋もれたり、仲間と体を寄せ合ったりして眠ります。十勝では真冬になると氷点下10〜15℃まで気温が下がることも珍しくありませんが豚は凍えることなく、雪のなかでも元気に過ごしています。

野草、牧草、木の実など自然のなかから多用な栄養素を摂取

 

 放牧中は不断給餌(いつでも餌を食べられるようにする)ですが、豚は自然のなかで野草や牧草、木の枝、ドングリなどの木の実を食べたり、鼻で土を掘って草木の根や土中の虫を食べ、土を嘗めたりして多様な栄養素、ミネラル分を摂取しています。また、青草や木の実が得られない冬の期間は配合飼料とともに牧草サイレージ(牧草をロール状に丸めて発酵させたもの)や乾草を与えています。

「動物にはそれぞれ特有の習慣があり、豚には鼻で土を掘る、水場で泥遊びをする、朽ち木や木の枝、石を拾って噛む(チューイング)などの習慣があります。こうした特有の習慣を満足させることでストレスが軽減し、心身の健康を取り戻し、健全に生育します」と平林さんは説明します。

 一方、狭い豚舎で密飼する一般の養豚場では一坪(3.3平方メートル)に2.5頭の飼育が標準といわれ、豚は成長すると身動きができなくなり、折り重なるようにして眠るため良質の睡眠が得られず、鉄製あるいは強化プラスチック製の簀子やコンクリート床のために特有の習慣である鼻で土を掘ることや泥遊び、チューイングもできず、ストレスから鉄柵を噛む、喧嘩をする、仲間の体に噛みつくなどの異常行動が見られ、緊張感、絶望感から精神に異常を来しているといわれます。 
 また、狭い豚舎での密飼いでは糞尿処理もままならず、周辺に糞尿の臭いが蔓延している養豚場もあり、衛生状態も悪く病原菌が繁殖しやすくなっており、運動不足で体力のない豚が病原菌に感染しやすいことから病気予防のために抗生物質や殺菌剤が多用されています。抗生物質は成長促進のための飼料添加物として餌の中に混ぜられている場合もあります。一般の豚肉の臭みは、実はこうした飼育環境の悪さや穀物主体の配合飼料(濃厚飼料)の多給による豚の腸内環境の悪さに起因するといわれます。

 平林さんは「一般の豚舎飼いされる子豚は、母豚の乳首を傷つけないように歯を切られ(切歯)、子豚同士の尾かじりを防ぐために尻尾を切られ(断尾)ますが、エルパソ牧場では子豚にストレスを与えないために切歯、断尾をしていません。切歯、断尾された子豚よりストレスが少なく、発育もよい」と指摘します。

8か月半の長期飼育で赤身肉と脂肪のバランスが良くなり、美味しさが増す

 

 放牧された豚は、体重が170〜180kg(およそ260日齢)になったところで屠畜場に運ばれ、屠畜された豚肉は枝肉状態でレストラン「ランチョ・エルパソ」に併設された加工場に納入されます。  一般的な養豚では子豚が生まれてから5〜6か月(150〜180日齢)、体重110〜120kgで出荷されます。最近では生後4か月(120日齢)で出荷されることも珍しくありませんが、エルパソ牧場では一般的な養豚の約1.5倍、およそ8か月半の飼育期間です。  放牧飼育は豚の運動量が多く、トウモロコシなどの穀物飼料に比べて繊維質が多くてカロリーの低い草や木の実などを餌とすることが多いので体重増加が遅く、飼育期間が長くなるといわれますが、平林さんは、「現在飼育しているケンボロー種の豚は生後6か月で赤身肉が十分に成長しますので、通常はそこで出荷されますが脂肪が薄いのです。しかし、もう少し長く飼うと脂肪と赤身肉のバランスが良くなりおいしさが増します。そこで約2か月半も長く育てているのです」と言います。  屠畜場から加工場に納入された枝肉は、2℃の冷蔵庫で14日間の長期熟成されます。どろぶたの脂質には旨味成分の素といわれるオレイン酸が45%以上も含まれているうえに、14日間の熟成によってタンパク質がアミノ酸に分解され、旨み成分であるグルタミン酸が5倍になるなど遊離アミノ酸類が飛躍的に増加するというデータもあります。  平林さんは、エルパソ牧場の放牧豚(どろぶた)のおいしさの秘密として、(牧によるストレスの軽減(アニマルウェルフェア=家畜福祉)、長期間飼育(約8か月半)、E肪楔14日間の熟成、をあげています。

豚は泥んこになるのが大好き、だから「どろぶた」だ!

 

 「どろぶた」という名称は、豚は泥遊びが大好きで、泥んこになって喜んでいるところを、平林さんの友人で脚本家の小山薫堂さんが見て「これは、どろぶただ!」と言ったことから名付けたそうです。
 一般の養豚場では生産効率を重視した豚の飼育が行われていますが、エルパソ牧場では品質が重視されています。「自分が調理したい豚肉を作りたかった。だから効率ではなく品質にこだわります」と平林さん。

 また、「たとえ人に食べられてしまう家畜でも、生きている間は幸せに過ごしてほしいと願っています。ドイツにはお店に豚肉を買いに来るご婦人が『この豚は幸せでしたか?』と尋ねるエピソードがあると聞きます。私も、そう尋ねられたときに『この豚は幸せでした』と答えられる豚を、これからも育てていきます。心の通い合いが豚も人も幸せにします」と語ります。

 北海道十勝の大自然のなかで、幸せに伸び伸びと暮らすどろぶたの精肉、どろぶたのモモ肉に天然塩を用いて500日間の長期熟成で仕上げた希少な生ハム(プロシュート)をぜひご賞味ください。